ハンガリーの首都ブダペストといえば、ヨーロッパらしい華やかな街並みに、カフェや音楽が彩りを添える「ドナウの真珠」と呼ばれる優雅な都市です。
しかし、ブダペスト(当時のブダとペスト一帯)は1541年から1686年までのおよそ150年間、オスマン帝国の支配下にありました。
その時代にはモスクやトルコ式浴場(ハマム)をはじめ、宗教施設や市場、防御施設などが築かれ、街並みはオスマン風の姿へと変わっていったのです。
1686年、ハプスブルク軍がブダを奪還すると、オスマン軍は退き、多くのイスラム建築が姿を消しました。
しかし、人々に敬われた聖人の霊廟や、生活に欠かせない温泉施設は残され、今もブダペストで目にすることができます。
利用は14歳以上に限られています
オスマン帝国時代の名残は、今もブダペストに独特の魅力を添えています。
この記事では、その中から実際に訪れることができる霊廟や温泉など、4つの遺産をご紹介します。
ヨーロッパ都市の中に潜む、エキゾチックな空間をのぞいてみたい方は、ぜひ最後までご覧ください🎉
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ブダペストに残るオスマン帝国の名残4選
右下には当時の人物として、ターバン姿のブダのパシャと、ハンガリー兵が並べられています
画像引用元:Wikipedia
オスマン帝国期の面影は、いずれもブダ側に点在しています。
霊廟から温泉まで、現在でも実際に立ち寄れるスポットを4つピックアップしました。
1. グル・ババ霊廟(Gül Baba türbéje)
オリジナルの構造を残しつつ、時代ごとの修復を経て現在の姿に整えられています
マルギット橋の西にある小高い丘に建つのが、神聖な雰囲気の漂う「グル・ババ霊廟」です。
この地域は「ロージャドンブ(Rózsadomb=バラの丘)」と呼ばれ、バラを愛した聖人グル・ババ(トルコ語で「バラの父」)の伝承に由来します。
グル・ババは、イスラム神秘主義(スーフィー)のベクタシ教団に属する修道僧で、戦場では祈りを捧げ、兵士の士気を支えた精神的指導者でした。
1541年のブダ占領直後、勝利を祝う礼拝の最中に亡くなったと伝わっていて、あのスレイマン大帝自らが葬儀に参列し、棺を担いだそうです。
霊廟の周りをバラが囲んでいます
イスラム世界では各地の霊廟を訪れる「ズィーヤーラ(参拝巡礼)」が行われますが、グル・ババの霊廟はその最北の聖地の一つです。
霊廟には、巡礼者らしき人々もたくさんお参りにきています。
2016年からはハンガリーとトルコの共同プロジェクトによる大規模改修が行われ、2018年に新しい文化施設「グル・ババ文化センター兼展示施設(Gül Baba Kulturális Központ és Kiállítóhely)」として公開されました。
現在は美しく整った施設ですが、入場は無料で誰でも気軽に訪れることができます。
霊廟は建物の最上階にあり、八角形のドームの中には布で覆われた棺が安置されています。
私が訪れた時、信者男性が立入禁止ロープを超えて棺の横で熱心に祈りを捧げており、警備員さんが慌てて駆けつけ、敬意を示しつつも注意していました。
建物内部では、グル・ババの生涯や、質素な暮らしを送り祈りに専念したスーフィー修道僧=デルヴィーシュの生活を紹介する展示が常設されています。
無料トイレやお土産物屋さんもあり、カフェではトルココーヒーやトルコ紅茶(チャイ)なども販売されているので、訪問のついでにぜひ立ち寄ってみてください。
古さが残るのは霊廟だけですが、ブダペストの温泉以外でオスマンの歴史を体感できる、おすすめスポットです!
文化センターまでの坂道が少し大変ですが、がんばって登ってください。
グル・ババの霊廟の情報 | |
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住所 | Budapest, Mecset u. 14, 1023 |
アクセス | バス・トラムなどの停まるマルギット橋のたもとMargit híd, budai hídfő停留所より、徒歩6〜7分 |
公式ホームページ | https://gulbabaalapitvany.hu/?lang=en |
開館時間 | 火〜日曜日の10:00〜18:00 |
定休日 | 月曜日 |
見学のポイント | 入場は無料 |
2. ルダシュ温泉(Rudas Fürdő)
ゲッレールトの丘のふもと、ドナウ川沿いに建つルダシュ温泉は、16世紀オスマン時代に起源をもつトルコ式浴場と、近代的なスパエリアが併設された複合温浴施設です。
豊かな温泉に恵まれたブダ一帯では、オスマン帝国時代に根づいた温泉文化が、今も街の魅力として受け継がれています。
ルダシュ温泉はエキゾチックな雰囲気が魅力の人気温泉で、14歳以上限定のため、大人だけの特別な時間を過ごせます。
トルコ式浴場エリアは、厚い石壁と八角形プール+半球ドームが核で、天窓(ガラスの小円盤)から差し込む光が印象的な場所です。
トルコ式浴場は「清め(洗い)→温熱→冷却」の循環で心身を整える設計になっており、今もその体験を味わうことができます。
中央の大理石プレートには「ブダ総督ソコルル・ムスタファ・パシャが1566–1578年にドームホールを造営」とハンガリー語で記されており、当時の事業主体がわかるのが面白いです。
ハプスブルクがブダを奪還した後もルダシュ温泉は存続し、周囲には西洋風の浴場や施設が増築されました。
それでもやはり、一番の見どころは、オスマン帝国時代そのままのハマムのエリア。独特な雰囲気を今に伝えており、個人的にもとても好きなおすすめの温泉です。
ただし、トルコ式浴場は平日に男女別の利用日や時間帯が設けられているため、公式ウェブサイトの営業時間のチェックは必須です!
画像引用元:公式ウェブサイト
500年前の空気が漂うトルコ式浴場を、ぜひご自身で味わってみてください!
♨️ルダシュ温泉の詳しい情報はこちらにまとめました。トルコ式浴場のことはもちろん、モダンなスパエリアの様子も紹介しています。
ルダシュ温泉の情報 | |
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住所 | Budapest, Döbrentei tér 9, 1013 |
アクセス | Rudas Gyógyfürdő停留所から徒歩1〜2分、Döbrentei tér停留所から徒歩3〜4分 (トラム19/41/56/56A、バス7/8/8E/107/108E/110/112) |
公式ウェブサイト | https://en.rudasfurdo.hu/ |
営業時間 | https://en.rudasfurdo.hu/opening-hours |
定休日 | 基本的にはなし クリスマス前後など、公式ウェブサイトを要確認 |
チケット料金 | https://en.rudasfurdo.hu/prices |
3. キラーイ温泉(Király Fürdő)
※2025年8月現在閉鎖中
キラーイ温泉は、1565年にアルスラン・パシャが着工し、ソコルル・ムスタファ・パシャの時代に完成した典型的なトルコ式浴場。
当時の城壁内に作られたこの温泉には、直接の源泉はないものの、戦時中でも入浴できるよう、ルカーチ温泉の源泉からお湯を引いていました。
最後に改修が行われたのは1950年代で、「時が止まったような渋い雰囲気」が人気でした。
施設の老朽化に伴い2020年から閉鎖していて、残念ながら営業再開の目処はまだたっていません。
1796年にドイツ系ケーニヒ家が所有し、トルコ式にクラシック様式の浴場を加えました。名前の「キラーイ(王様)」はこの家名に由来します。
改修工事の目処はまだ立っていませんが、渋い雰囲気を残したままの形でのリニューアルに期待したいです。
ブダ側のマルギット橋の南側、Fő utca(フー通り)とGanz utca(ガンズ通り)の角から外観が見えるので、近くを通ったらぜひ立ち寄ってみてください。
キラーイ温泉の情報 ※2025年8月現在、閉鎖中 | |
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住所 | Budapest, Fő u. 84, 1027 |
アクセス | 地下鉄2号線Batthyány tér駅から徒歩10分 トラムのMargit híd, budai hídfő停留所から徒歩9分 |
公式ウェブサイト | https://en.kiralyfurdo.hu/ |
再オープンに期待しましょう
4. ヴェリ・ベイ温泉(Irgalmasok Veli bej Fürdője)
温泉は病院関連の建物に囲まれていて、意外と気づきにくいです
マルギット橋のブダ側に位置するヴェリ・ベイ温泉は、1574〜75年頃に完成したブダ総督ヴェリ・ベイの名を冠したトルコ式浴場。
ガイドブックなどにはあまり載っていない、知る人ぞ知る穴場的な温泉です。
画像引用元:termalfurdo.hu
18〜19世紀にハンガリー貴族や修道会によって再整備され、クラシック様式のチャーサール温泉と一体で運営されましたが、20世紀後半には一時期使われなくなっていました。
2012年に改修工事が終わって再オープン、“古い時代の風情はやや控えめ”ですが、快適で過ごしやすく、お値段もお手頃な温泉です。
星形や円形の小窓から光が差し込むドーム天井、中央の主浴槽と周囲の小浴槽という、典型的なハマムの構成が残っています。
ヴェリ・ベイ温泉は、14歳以上のみ利用できます。
12〜15時はお湯の入れ替えのため閉鎖され、午前・午後に分かれて営業していて、チケットは基本的に3時間制です。
一日中のんびり過ごすというよりは、こじんまりとした空間で、集中して湯浴みを楽しむスタイルといえます。
温泉のドーム見える場所に、気軽に利用できるカフェがあります。
オスマン期の温泉は、有名建築家ヒルド・ヨージェフが設計した19世紀のヨーロッパ風の建物や、社会主義時代の素っ気ない建物に囲まれています。
丘の上には、長年放置された末にようやく完成した住宅が立ち、時代がごちゃ混ぜになった独特の景観を生み出していて、ある意味、これこそがブダペストらしい風景です。
周囲にはさまざまな時代の建物が混在していて、不思議な気持ちになるかもしれません…!?
ヴェリ・ベイ温泉の情報 | |
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住所 | Budapest, Árpád fejedelem útja 7, 1023 |
アクセス | Komjádi Béla utca停留所から徒歩3分、Császár-Komjádi uszoda停留所から徒歩4分 (トラム17/19/41番、バス9番など) |
公式ウェブサイト | http://www.irgalmasrend.hu/site/velibej/sprachen/en |
営業時間 | http://www.irgalmasrend.hu/site/velibej/sprachen/en/openinghours 午前6〜12時(ただし、月〜火曜日の午前は閉鎖で午後のみ) 午後15〜21時 |
定休日 | http://www.irgalmasrend.hu/site/velibej/sprachen/en/openinghours いくつかの祝日が定休日。公式ウェブサイトを要確認 (※2025年8月31日までメンテナンスのため閉鎖中) |
チケット料金 | http://www.irgalmasrend.hu/site/velibej/sprachen/en/prices 平日4,500フォリント〜(曜日と時間帯違よる) 表示されている料金は3時間まで。延長の場合は1分につき33フォリント |
【まとめ】ブダペストで出会うオスマン帝国時代の痕跡
ブダペストでは、今日でもオスマン帝国時代の名残に触れることができます。
霊廟では静けさの中で祈りの空気を感じ、温泉ではドーム天井と差し込む光、石造浴槽という500年前の設計思想をそのまま味わえます。
4か所ともブダ側にまとまっているので、観光の動線も組みやすいです。
- 「グル・ババ霊廟」は入場無料(月曜休館)。丘を上った先で、神聖な雰囲気に触れられます。
- 「ルダシュ温泉」「ヴェリ・ベイ温泉」では、500年前のハマム空間を実際に体験できます。営業時間や料金が細かく設定されているので、出発前に必ず確認してください。
- 「キラーイ温泉」はあいにく休業中(再開未定)ですが、外観だけでも迫力があって、すぐ側まで近づけます。
ヨーロッパの都でありながら、中東の気配に出会えるブダペスト。
気になる場所が見つかったら、ぜひ足を運んで、その場の空気を体感してみてください。
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